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地方創生の加速には、地域に根ざした新産業の創出と若い経営者の登場が欠かせません。しかし、既存の金融機関が提供する資金調達方法(融資・担保・保証など)では、地域ならではの課題を十分にカバーしきれないケースが多くあります。
地域金融機関や経営者人材を結びつけ、新しいタイプの地方ファンドを全国に届けようとしているのが、ジョイントベンチャー「Team Local Capital(TLC)」です。
本JVを構成するのは、投資・ファンド運営や地方創生における幅広い知見とネットワークを有し、松本直人氏が代表を務める「ABAKAM」、サーチファンドを通じて中小企業の企業価値向上にコミットしている「ロケットスター」、そして宮崎県延岡市をはじめとした行政と社長輩出プロジェクト「CEOオーディション」仕掛けや全国の地銀ネットワークを持つバイウィルをグループ会社に持つ「Team Energy」の3社。それぞれの強みを掛け合わせ、地域の経済を根底から変える革新的な仕組みづくりに挑戦しています。
今回は、その中心メンバーであり、ファイナンスのプロフェッショナルである松本直人さんにインタビューを行いました。
「IPO(株式上場)やバイアウトだけが投資の回収手段ではない」という思いから生まれた“E2C(Exit to Community)”という発想。さらに地域のステークホルダーが株式を保有することで、企業の成長を「みんなの幸せ」に結びつける新たな株式設計――。そんなまさに地域の新しい“資本”を生み出す取り組みについて、たっぷりお話を伺いました。
地域にこそ必要なリスクマネー──TLC設立の背景

ーーまずは、「Team Local Capital(TLC)」の設立背景についてお聞かせいただけますでしょうか?
松本:背景は少し長くなりますが……。もともと私はフューチャーベンチャーキャピタルという会社で、いわゆる「地方創生ファンド」の立ち上げに取り組んでいました。地域に新しい産業をつくり、企業を応援する目的のファンドです。地方はどうしても廃業率が開業率を上回ってしまうので、そこを何とか逆転させたいと。
もちろん地域の金融機関は融資を通じて支援をされてきましたが、担保や保証の問題もあって、リスクをとった資金を十分に出せる状況ではないんですね。そこで「エクイティ(株式投資)」という形で新規開業する方や、後継者問題を抱えている事業にリスクマネーを供給できる仕組みづくりを始めました。
そして約10年続けてきたなかで、一定の成果は出たと感じています。でも、一口に「地域」といっても人口30万人以上の“地方都市”ならともかく、本当に小さな町や市になると、どうしても起業家や経営者層が薄い。そこを変えていく術は何かないだろうか……と模索していた時に出会ったのがTeam Energyなんです。
宮崎県延岡市という、それほど大きくない都市でCEOオーディションを実施していること、そしてバイウィルは、森林整備やカーボンクレジットといった新しいビジネスを地域から立ち上げていること。それらは、私にとってものすごい衝撃でした。地域にこそ新しい産業を創出できるポテンシャルがあるんだ、と。
「じゃあ、そこに投資の仕組みが加わったら、すごいことになるのでは?」と思ったのがまず大きかったですね。加えて、ロケットスターさんがサーチファンド型の事業承継に取り組んでいて、優秀な経営者候補(サーチャー)を集めていることを知りました。起業の方だけでなく、事業承継の側面でも地域に必要なリスクマネーを提供できる。これらを融合すれば、地域が抱える「廃業率を下げる」「新産業を生む」という両面を解決できるかもしれない……。そこで意気投合したのが、TLC設立のいちばんのきっかけです。

「上場しないと回収できない」はもう古い──E2C(Exit to Community)の新発想
ーーTLCでは「E2C(Exit to Community)」という独自のコンセプトを掲げています。一般的なベンチャーキャピタルのようにIPOやバイアウトに依存しない形での回収スキームだと聞きました。
松本:既存のベンチャーキャピタルは、投資先がIPOして株を売却することでリターンを得ています。企業の成長余地や株式市場での流動性といった観点から、必然的にマーケットの大きい東京や海外で急成長を狙うスタートアップ中心の投資になりますよね。
ただ、これだと地域の金融機関が「地域を元気にする」ために投資をするには合わないケースが多い。なぜなら、地銀などが出資したファンドが、東京のベンチャーばかり支援して、結局は地域に還元されない……という事態に陥りがちなんです。
その反省を踏まえて、「上場を目指さなくても成長すれば投資リターンが得られる仕組み」を構築したんです。具体的には、次の2つの方法を主に使います。
1.自社株買い
企業が利益を出し、社内に十分な余剰資金が溜まった段階で、ファンド(出資者)が保有する株をその会社自身が買い戻す方法です。企業側が成長し、金融機関も融資しやすい状態になるころに、投資部分を徐々に借入金へ転換していくイメージですね。企業は急激にキャッシュアウトする必要がなく、金融機関はその後の融資先として取引関係を続けていける。双方にメリットがあります。
2.ステークホルダーへの株式譲渡
地域の従業員や取引先、ファン・顧客など、関係者に株式を譲渡していく方法です。議決権の扱いなど、株式の設計次第で「みんなで会社を支える」仕組みをつくれる。地域の企業は大きくなると社長だけが得をすると敬遠されがちですが、従業員やお客さんも一緒に株主になれれば、地域みんなが応援し、恩恵を受けられる。そういう設計を、地域に合わせて柔軟にやっていくわけです。
もちろん、そうした複雑なスキームは、これまでの銀行業務だけを行ってきた金融機関にとって慣れない世界だと思います。でも、そこをTLCが「E2C(Exit to Community)」の仕組みごと提供することで、金融機関にインストールしていく。投資子会社と共同でファンドを運営して、ノウハウも実務も一緒に積み上げていくイメージです。
地域金融機関とタッグを組む──目指すは47都道府県すべてにファンドを

ーー実際にTLCとしては、今後どのような形で全国の地銀と連携していくのでしょうか?
松本:私たちは、地域の金融機関とがっつりタッグを組むつもりでいます。その地域の地銀さんの投資子会社とTLCが、共同でファンドを運営する、という形を基本に考えています。たとえば地域で20億円規模のファンドをつくり、そこから新規起業にリスクマネーを投下していくわけです。
起業家には数千万単位で投資し、将来の承継案件、いわゆるバイアウト型には1~2億円ぐらい投資する。最終的には20社程度の新規事業と、6社程度の事業承継案件を成立させるイメージですね。上場を強要せず、地元の金融機関が「地元のお客さま」の成長を長期的に支える。これこそが地域創生ファンドのあるべき姿だと思うんです。
そして、このモデルを全国47都道府県に広げたい。もし各エリアで20社ずつ新しい企業が生まれれば、それだけで合計1000社、1000人の新しい経営者が日本の地域で誕生することになりますよね。そんな未来を本気で実現したいと思っています。
経営者を育てる、承継を促す──「CEOオーディション」「ロケットスター」との連携
ーーTLCにおける、「CEOオーディション」や「ロケットスター」との具体的な連携イメージも教えてください。
松本:ファンドを設立したら、そのタイミングでCEOオーディションを地域で開催し、新しくチャレンジしたい人や、地域を盛り上げたい人を募ります。そこで選ばれた経営者候補に対して、TLCがリスクマネーを出すわけです。
また、ロケットスターさんのサーチャー(経営者候補)とも連携したい。いわゆる事業承継に苦しむ優良企業って、株式価値が高い分、後継者が個人で買い取るのが難しい。そこでファンドが株式をいったん引き受け、経営に挑戦したいサーチャーが着実に成長させていき、成果に応じて株式を譲渡する。そういう形がとれれば、ただ外部の大企業にM&Aされるよりも地域経済にメリットが残りやすいんです。
ロケットスターさんには優秀な人材が多数集まってきている一方で、ファンドから投資できる案件数にはどうしても限りがあります。でもTLCのファンド網が全国に拡がれば、サーチャーにとっても承継企業にとってもWin-Winになるはずです。
地域のみんなが儲かる──新しい株式設計が生む“未来共創型資本”
ーー地域の企業を「みんな」で応援するという考え方は、従来の資本主義の発想を大きく超えていますね。
松本:私自身、この仕組みを「未来共創型資本」と呼んでいます。いわゆる株主=経営者だけがメリットを得るのではなく、取引先や顧客、従業員みんなが株を持つことで、会社の成長が地域全体のメリットになる──こういう仕組みが地方では非常に大切なんです。
地域に根ざす企業が儲かると、社長だけが良い車に乗るのではなく、その恩恵が働く人や町にも還元される。するとさらに周囲が応援してくれて、持続的に成長していく好循環が生まれます。「挑戦した人が報われ、かつ、周りの人からも愛される」仕組みを、株式の設計でサポートするのが私のライフワークであり、TLCの役割なんです。
Team Energyだからこそ生まれる相乗効果
ーー最後に、TEマガジンの読者に向けてメッセージをお願いします。また、松本さんご自身はこれからTeam Energyグループのメンバーとして、どんな夢を追いかけていくのでしょうか?
松本:Team Energyは、上場会社にはない強みがあると感じています。不確実でも大きな社会的インパクトを目指す事業に思い切って投資し、経営者を育てていく土壌。まさに「社内外のチャレンジャーを応援するDNA」が詰まっているんですね。
私が長年培ってきたファイナンスのノウハウと、地域で新しいビジネスを生み出せるTeam Energyの仕組みが合わされば、さらに大きな化学反応が起こせるはず。
TLCが全国にファンドをつくり、47都道府県すべてで起業家や事業承継を支援し、1000人規模の経営者を生み出す。そうして生まれた経営者一人ひとりが、地域を愛し、周囲のステークホルダーたちと一緒に頑張っていく――。そうした未来が実現したら、日本の姿は大きく変わると信じています。
私の夢は「未来共創型資本」を普及させることです。株主利益だけに偏らない仕組みは、これからの日本経済にとって必要不可欠だと思います。Team Energyと協力しながら、それを形にしていくのが私の使命かな、と。
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今回、TLC設立の背景にある「地域でこそ成立する新しい事業」「地域金融機関への投資ノウハウの移転」、そして「地元の人々が株主として企業を支える仕組み」などを伺い、改めて地方創生の可能性を感じました。
「企業が儲かっても社長だけがいい思いをするのではなく、みんながハッピーになる」。このビジョンを大切にするTLCの取り組みは、地域の未来を明るくする大きな希望と言えそうです。
記事をお読みいただいた方が、少しでも「こんな事業の作り方があるんだ」とワクワクしたり、「自分も地域に関わりたい」と思ってくれるきっかけになれば幸いです。
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